去る二月十三日(金曜日)、神戸大学美術史研究会第15回総会を開催いたしました。
第一発表者:白石華菜恵(神戸大学大学院人文学研究科)
「ヘンリー・ダーガー研究」
第二発表者:邵曄(神戸大学大学院人文学研究科)
「横山大観「或る日の太平洋」に描かれたモティーフについて」
ダーガーの『非現実の王国で』内のテクストと膨大な挿絵群の照合。大観の富士についての戦後の語りと、頻繁に選ばれた神山というモティーフの原文脈的な語りからの発展的な解読。こうしてみると、イメージとテキストの読み直しという点で共通しているように思われる。作家は何をどう「見」せたかったのか、から転じて発表された当時から現在のわれわれにいたるまでどのように「見」られてきたか、それら総体としてのテクストは何を「語る」のか。間テクスト性、テクストの複数性といった読み自体の更新も久しく、テクストとともに読むことも避けられませんが、しかしそれがどれほど有効な理論であれ、美術史においては作品に幾度も立ち返り、触れるという観賞体験と疎遠な研究に甘んじることはできません。その意味で、お二方の発表が個々の作品分析を端緒になさっていることは、必要不可欠な手続きでありますし、そのテクスト/イメージの往還に伴って個々の主題の魅力も振幅する発表で、大変興味深く聞かせて頂きました。
(個人的にはダーガーの作品の少女殺戮という惨劇描写を作家が描けなかった性行為の等価物として解釈するのは、それがたとえ事実であっても留保せねばならないのでは、と考えている。問わねばならないのは、作品の精神的表現内容ではなく、いささかパースペクティヴの狂った語りそのものではないだろうか。“生のまま”の芸術である所以は、芸術以前のリアリティをその語り自体が携えているからに他ならない。)